回遊の人生楽笑ブログ

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多良福シリーズ番外編 bar『ゲイ人』 5

どうしても見たい不朽の名作

 

サンダーが店にやってきてどれくらい経っただろうか?

 

本当に何も喋らない。

 

たまに飲み物注文するくらいだ。

 

こいつ暗いやつなんだなぁ・・・

 

「なぁ・・・」

 

サンダー着るならもっと明るくなれよな・・・Tシャツ負けにも程があるよ。

 

「あのぉ・・・」

 

そもそもTシャツ負けってなんだよ!!

 

そもそもあのTシャツ着てたら負けだよ!!

 

・・・悔しいくらいに心の中でツッコんでしまった。

 

「あのぉ・・・聞こえてます?」

 

もう1つ言わせてもらうけどさぁ・・・飲み物がマダムロゼって・・・似合わねぇ!!

 

そもそもカクテル似合わねぇ!!

 

そもそもbarにいるのが似合わねぇ!!

 

サンダーは自分の家で牛乳でも飲んでろ!!

 

なんでさぁ・・・

 

・・・

 

・・・

 

・・・止まらなくなっていた。

 

止まらなくなったついでに口に出して言いたい・・・口に出して・・・

 

「もしもし・・・弾さん?」

 

・・・ん?

 

呼んでる?

 

「・・・はい?」

 

「やっと聞こえた。さっきから呼んでたんですけど・・・漢さんは?」

 

「あぁ・・・すいません。漢なら休憩じゃないでしょうか?」

 

「あのぉ・・・俺お客さんだよ?お客さんいるのにバーテンダーって休憩行くの?」

 

「・・・漢の悪口ですか?」

 

サンダーのくせに漢の悪口言うなんて・・・身の程を知ってもらいたい。

 

「漢さんに対してでなく、このお店に対しての文句です。」

 

このお店に文句?・・・こいつは本当に失礼なやつだな。

 

「このお店に何か不満でも?」

 

「お客さんいるのに休憩行かないで!!飲み物ほしい時どうすればいいの?」

 

「飲み物の注文ですか?僕が作りますよ。」

 

作ったことないけど。

 

「最初から漢がいなければ僕に声かけてください。」

 

「何回かあなたに声かけたんですけど。」

 

あれ?

 

「数回無視されての今回です。」

 

そうなの?

 

「これは・・・文句言ってもいいですよね?」

 

・・・

 

・・・

 

数回無視されたくらいで器の小さい男だよ。

 

本当に・・・漢を見習ってほしい。

 

「・・・失礼しました。ところでお飲み物の注文は?」

 

どうせ似合わないマダムロゼだろ?

 

「あぁ・・・じゃあ・・・コーラください。」

 

・・・

 

・・・ファミレス行け!!

 

ドリンクバーでも注文しろっ!!

 

・・・ったく・・・

 

何がコーラだよ・・・。

 

そんなことを心の中で呟き、僕がコーラを準備しようとした時

 

「すいません。ちょっと裏に用事があったもので。」

 

漢が戻ってきた。

 

「あぁ戻ってきた。漢さん、すいませんがコーラください。」

 

「コーラですか?」

 

「はい。」

 

「木林さん。」

 

「林山です。」

 

「こういう言葉をご存知ですか?」

 

漢言ってあげて!!

 

このサンダーにガツンと心に響く名言を言ってあげて!!

 

「走らない豚は、ただの豚だ!!」

 

「・・・はい?」

 

・・・

 

漢・・・どうしたの?

 

まさかの不発?

 

「さっき見た映画の名言ですよ。」

 

「その名言とさっきの注文何か関係あります?」

 

「特にないです。言ってみたかったのです。」

 

「てか接客中になんで映画見てるの?」

 

「見たかったから・・・ですかね。」

 

「そもそもお客さんいるのに休憩行く?」

 

「用があるなら呼んでくだされば・・・よかったのに。」

 

「さっきからちょっと語尾溜めて言うの何なの?」

 

「気持ちがいい・・・んです。」

 

そういうと漢はサンダーにコーラを渡した。

 

漢のそういう自由な性格が好きだ。

 

いつも僕を翻弄する。

 

もう・・・好きにしてほしい。

 

「どうです?この名言心に響きました?」

 

「全く!!」

 

さらに続けるサンダー。

 

「この状況でその名言が心に響くやついたら・・・そいつは頭おかしいよ!!」

 

「僕は・・・僕には響いた!!」

 

「いたぁ!!頭おかしいやつここにいたよ!!」

 

「弾・・・君ならわかってくれると思ったよ。」

 

微笑み合いながら僕と漢は見つめ合う。

 

「・・・よかったね。」

 

サンダーはそう言うとまた黙って1人物思いに耽った。

 

あぁ・・・漢と心が1つになったこの瞬間・・・この時が永遠だったらいいのに・・・

 

そんなことをずっと考えていた僕。

 

微笑み合いながら見つめ合った時の余韻に浸っている僕。

 

そんなことを考えていると・・・どれだけ時間が経っていたのだろうか。

 

気付いた時にはサンダーは帰っていた。