甲斐くんと林山、たまに戸田。運命交錯編 3
悟
「ご飯できたわよぉ。」
賄いができたことをお母さんのような気分で俺に知らせる甲斐くん。
「今日のご飯は何?」
ちょっとだけノッてみた。
「今日はあなたの大好きな・・・カレーよ。」
賄い定番料理。
「・・・またかよ。」
「そんなこと言わずに食べて。」
せっかく作ってくれたしな・・・てかいつまで母親の設定なのかな?
「いただきます・・・ん?」
「どう?おいしい?」
「・・・うまい!!超うめぇ!!これ甲斐くんが作ったの?」
「そうよ。悟のこと思って・・・温めたのよ。」
・・・気持ちわりぃなぁ・・・。
って温めるって・・・。
「これレトルト?」
うなずく甲斐くん。
「俺何年もここで働いてるけど、賄いにレトルト食品出されたの初めてだわ。」
「悟・・・お母さんはね、みんながしてないことをやってみたかったの。」
さっきから気になってたけど・・・悟って誰だよ。
「まぁ・・・美味しいからいいか。」
「ありがとう。悟は優しいのね。」
・・・。
・・・。
しばらくしょうもない話をお母さん風の甲斐くんとする。
ある程度したら飽きるだろうと思って話していると・・・なかなか飽きない。
そしてずっと俺のこと悟って。
ちょっと怖くなってきた。
・・・だがここまできたら俺は最後まで無視を貫く。
そう決めたんだ。
「ねぇ・・・そろそろ悟いじってくれない?」
・・・!?
向こうが痺れを切らしてきた!!
どうしようかな・・・。
「・・・いや。いいよ悟で。」
受け入れてみた。
「・・・あなたは前から人に言われたことを素直に受け入れる子だったから・・・名前違っても受け入れちゃうのね。」
・・・ちょっと面白そうな匂いがする。
続けて話す甲斐くん。
「悟・・・お母さん待ってるの。」
「何を?」
「いじってくれることを。」
どこまでこのノリが続くのか試してみたくなった。
「・・・誰だよ。悟って。」
ちょっと面倒くさそうに言ってみる。
「・・・感情がうまく表現できないのはお父さんそっくりなのね。ただ、ここはもっと驚く、もしくは怒る的な感情を全面に出した言葉がほしいの。」
・・・。
・・・。
「悟・・・お母さん待ってるの。」
「うるせぇなぁ。俺の勝手だろ?」
「・・・思春期に反抗しなかったあなたが中年のおっさんになって初めて反抗してきた・・・遅いわよ。今はそうじゃないでしょ。」
・・・。
・・・。
もう飽きてきた。
「悟・・・お母さん・・・」
「『待ってるの』じゃねぇよ!!長ぇ!!」
膝から崩れ落ちる甲斐くん。
俺は賄いのレトルトカレーを食べ終え、片付けし、仕事に向かった。