甲斐くんと林山、たまに戸田。激闘編 14
幼稚園児
「見せてみろよ。戸田の1番得意なモノマネ見せてみろよ。」
「・・・お前ら!!」
「誰だよそれぇ・・・全然分からねぇ。」
「そうか?結構似てると思うんだが・・・お前ら!!」
「・・・男性?」
「いや。女性だ。」
順調だな。
間違いもない。
テンポも問題ない。
あの日の夜と一緒だ。
ただ・・・
たまに戸田がニヤニヤしてこっち向いてきやがる。
『こっち見るな。演劇に集中して・・・ほら次お前のセリフだぞ!!ちゃんと集中して・・・。』
心の中でこう思った。
この感情はきっと・・・幼稚園児が初めて舞台に立ち、園児が劇に集中せず、舞台から親を見つけてニヤニヤ笑っている時・・・
その時の親の感情だろう。
まさか中年のおっさんでこの感情が芽生えるなんてな。
・・・待て。
気付くと甲斐くんもこっちを見てる・・・
劇も止まっている・・・俺待ちか・・・。
・・・!?
「性別は当てようよ。」
・・・くそっ!!棒読みじゃないか!!なんてつまらないツッコミなんだ。
せめて大声でも出していれば・・・。
しかし、やつらはツッコミをもらったことで満足し、話を進める。
「声変わりしてない男の子の声に聞こえるんだよなぁ。」
「モノマネしてるの俺だからね。」
「に・・・似て・・・」
緊張してうまくおしゃべりできない。
ちくしょう!!演者になりきり、うまいことツッコミ入れていく予定だったのだが、これじゃ俺が1番大根役者じゃねぇか。
「・・・にて?」
さすがにインテリバカの甲斐くん。
俺の異変に気付きやがった。
「い、いやぁ・・・そこまで似てこそモノマネだろっ!!と思ってな。噛んでしまった。」
「本当に大丈夫か?しっかりしろよ林山ぁ。」
・・・心配された。
ここでやらなきゃ男じゃねぇ・・・パシッ!!
「おいおい!!突然どうした?自分でビンタなんかして・・・大丈夫か?」
甲斐くんが自分にビンタする俺林山に話しかける。
「いやぁ・・・昨日寝る前に色々考えててさぁ、寝れてなかったんだ。」
緊張せずに言えた。
セリフじゃなく、自分の言葉を発したから。
昨日だが・・・今日のこと考えすぎて寝れなかった。
「今頃眠気がきたぜ・・・それで起きるためにパシッとな。」
「林山ぁ・・今仕事中だぜ?」
・・・甲斐くん。
今日は仕事とかどうでもいいんだよ。
「すまんすまん・・・そうだよなぁ。気を引き締めるよ」
「・・・やっぱり今日のお前へんだぞ?」
「・・・何でそう思う?」
「いつもなら『仕事中にモノマネなんかしてんじゃねぇよ』的なことを言うだろ?」
・・・
・・・何だよこれ・・・知らずのうちに甲斐くんに追い込まれてやがる。
どうする・・・考えろ・・・。
・・・
・・・!?
「寝不足で何がなんだかわからなくなってさぁ・・・今仕事中?」
どうだ!!
これが35歳中年のフリーターが考えた結果だ!!
驚いただろ?
「・・・そうだよ。しかっりしろよ~。」
この考えた結果に対して何もツッコまず、『しっかりしろ』という言葉で済ます男・・・それが甲斐くんだ。
「・・・そろそろモノマネ当ててくれないかなぁ・・・。」
悲しそうに戸田が言う。
「そうだったな・・・戸田!!ヒントちょうだい!!」
「ヒントは・・・女優だ!!超有名女優。」
・・・ふぅ。
ようやく中盤を迎えた『モノマネ』
・・・
今日は本当に長い1日になりそうだ。