甲斐くんと林山、たまに戸田。誕生編 9
林山、回想する。
「なぁ林山。真剣な話をしてもいいか?」
検品作業をしながら普段と違う雰囲気で話し出す甲斐くん。
「どうした?」
「こんなこと、人生の先輩であり、ここのバイトの先輩でもあるお前に言っていいことか悩んだけど・・・友達として言わせてくれ。」
・・・?
頭でも打ったかな?
「なんだ?」
「最近やる気あるか?なんか昔に比べてがむしゃら感が感じられないんだ。」
ほぉ・・・これはどうしたものか。
「何に対して感じられないんだ?俺は別に変わったつもりはないぜ。」
「気付いてないのか?なんかこう・・・一生懸命というか、夢に向かって頑張ってたというか・・・。」
検品した商品を片付けていく。
昨日チルドレンの話しながら発注したから・・・重複するもの、不足しているものがたくさんあった。
俺林山35歳はアルバイトで働いているが、10年くらい勤務経験のあるベテランアルバイト。
社員からも多少信頼されている。
なので社員の行う発注業務を任され、今に至る。
「まさか夢って・・・俺が料理人になりたいってやつ?もうそれは昔のことだから・・・。」
入った当初は料理人になりたかった。
このことをチラッと甲斐くんに話してたのかなぁ?
両親が共働き、両親の休みが重なることがなかなかない家庭で育った俺・・・小さい頃寂しかった。
そんな生活をしてた頃の楽しみはご飯を食べに家族みんなで外に出ること。
仕事終わりとかで夜遅くなった時もあったが、その時だけは家族みんな一緒。
嬉しかった。
何話したとか全く記憶にない。
もしかすると何も話していなかったかもしれないが、心の中で幼いながら幸せを感じていた。
俺も料理作って他の家族たちを幸せにしたい。
みんな一緒に集まってご飯を食べる喜びを感じてほしい。
料理人になろうと思ったのはそのためだ。
「・・・料理人になりたかったの?初めて聞いたわ。」
「・・・は?いぇ?・・・あれ?ウソ?」
動揺を隠せない。
「なんかそういう夢の話したことない?いやあるよ絶対!!あるって言って・・・。」
回想してた自分が少し恥ずかしい。
ここだけの話ちょっとかっこつけた感じで回想してたから。
「ないなぁ・・・そんな話聞いたことない。」
真剣な顔は変わらない甲斐くん。
「俺が言いたかったのは最近のお前のツッコミだよ。」
は?
「インパクトはよかったが、あとは全部スルーされてる感じがしてたから。昔は『梅雨明けたんだぜ?梅雨明けたんだぜ?』とか言ってたじゃないか。」
は・・・はは。
そうね、そのことね。
あぁ・・・そのことね。
逆にいつもの感じに戻ってホッとした俺林山35歳。
やっぱ慣れない回想とかするもんじゃないね。